コラム:私の読書歴 II

承前

「風立ちぬ」堀辰雄

 私の世代としてはこのタイトルを聞くと松田聖子さんの歌が自然と(勝手に)頭の中を駆け巡ります。

 実はこの歌を企画したディレクターさんが題材とし、またその作詞者の松本隆さんが情景を思い浮かべるモチーフとしたのも、この堀辰雄の「風立ちぬ」です。前の武蔵野から大分と現代に近い昭和11年発表の作品です。

 こちらは、美しい自然に囲まれた高原の風景の中で、当時は有効な治療方法のなかった結核に冒されている婚約者に付き添う「私」が、やがて来る愛する者の死を覚悟し、それを見つめながら2人の限られた日々を「生」を強く意識して共に生きる物語です(ウィキペディアより要旨引用)

 婚約者の節子さん(堀辰雄の実際の婚約者矢野綾子さんがモデル)が結局のところ亡くなってしまい、最終章では主人公は彼女の生前を回想をするのですが、その際の彼女の最期を過ごした軽井沢の情景描写が秀逸で、この作品本来は悲しい物語のはずなのですが読んでいると現実を忘れて軽井沢に滞在した優雅な気分になってしまいます。ちなみに作詞家の松本隆さんは自身が修学旅行で行った軽井沢で見かけたホテルのカフェテラスの情景を思い浮かべ歌謡曲「風立ちぬ」を作詞されたとのことです。

 二回にわたり私の読書歴を紹介しましたが、先に書きましたように古典名作はスマホでタダで読めて、実生活から暫し離れられる手軽な現実逃避旅行として特に昨今の時節柄お勧めの趣味です。皆さんいかがですか。

春の軽井沢

冬の浅間山