コラム:私の読書歴 II

承前

「風立ちぬ」堀辰雄

 私の世代としてはこのタイトルを聞くと松田聖子さんの歌が自然と(勝手に)頭の中を駆け巡ります。

 実はこの歌を企画したディレクターさんが題材とし、またその作詞者の松本隆さんが情景を思い浮かべるモチーフとしたのも、この堀辰雄の「風立ちぬ」です。前の武蔵野から大分と現代に近い昭和11年発表の作品です。

 こちらは、美しい自然に囲まれた高原の風景の中で、当時は有効な治療方法のなかった結核に冒されている婚約者に付き添う「私」が、やがて来る愛する者の死を覚悟し、それを見つめながら2人の限られた日々を「生」を強く意識して共に生きる物語です(ウィキペディアより要旨引用)

 婚約者の節子さん(堀辰雄の実際の婚約者矢野綾子さんがモデル)が結局のところ亡くなってしまい、最終章では主人公は彼女の生前を回想をするのですが、その際の彼女の最期を過ごした軽井沢の情景描写が秀逸で、この作品本来は悲しい物語のはずなのですが読んでいると現実を忘れて軽井沢に滞在した優雅な気分になってしまいます。ちなみに作詞家の松本隆さんは自身が修学旅行で行った軽井沢で見かけたホテルのカフェテラスの情景を思い浮かべ歌謡曲「風立ちぬ」を作詞されたとのことです。

 二回にわたり私の読書歴を紹介しましたが、先に書きましたように古典名作はスマホでタダで読めて、実生活から暫し離れられる手軽な現実逃避旅行として特に昨今の時節柄お勧めの趣味です。皆さんいかがですか。

春の軽井沢

冬の浅間山

コラム:私の読書歴

 昨今は、歳のせいか根気がなくなってか、じっくりと腰を据えての読書がトンと減りました。

 それでも、最新のスマホは便利なもので、携帯操作で居ながらにしていろいろな書物をダウンロードで読書ができる便利な世の中になったものです。

 流行りの書物を取り寄せ(今的にはDLですか)紐解くのも一興ですが、旧世代の者としては、やはり子供の頃は図書館でしか読めなかった古今の文豪の名作の多くが版権切れ(現在は著作権の保護期間は作者の死後70年とされています)で、無料で読めるのがやはりスマホ読書の醍醐味です。

 近畿圏で育ち暮らした期間が一番長い自分が、何故だかよくわかりませんが近代の関東甲信越方面の風情や情景がすごく想像されるものとして好きな作品が

「武蔵野」国木田独歩

 東京の日本テレビ制作の「ぶらり途中下車の旅」という番組があり、この辺りではサンテレビで野球中継がないときに、本放送から数カ月遅れの分を放送しています。この番組はさまざまな芸能人がナビゲーターとして主に首都圏の鉄道路線に沿って途中下車した街をぶらつき、その土地のお店や施設を尋ねてゆく番組です。尋ねる多くの路線はやはり東京都下が多いのですが、構成上その土地の自然に触れるシーンが間々見受けられます。東京に居住したことはないのですが、イメージしているよりも地形や川の存在感が番組上感じられ東京の自然を探訪した気分になれる実はひそかに好みのテレビ番組であります。

 これを見ていて、東京都心で土地に結構アップダウンがあることに気付きました。それで調べてみると、東京は武蔵野台地が西から都心まで迫っていてその上にできた都市であることを知りました。

    万葉集のころから呼ばれていた武蔵野ですが、明治期に都市化が進む中で昔ながらの武蔵野の情景がまだ残っていたのが東京西郊の丘陵地帯とされ、その風景を描いたのが国木田独歩の「武蔵野」です。

 内容的には、武蔵野の四季折々の風景美を描いた随筆で、まあ特に関西人で何がおもろいんやと言われればそうなのですが、日頃我々が触れる機会のある六甲山系の自然とは違った自然美とくに明治期のまだまだ野生の残る武蔵野の場面を思い想像するのが、現実世界から逃避に最適な気がしませんですかね?

 ご興味の湧いた方は是非ご一読を。ダウンロードは無料ですよ!

井の頭公園内の神田川源流